COLUMN特集
2022.03.09 バイク産業 バイクを取り巻く産業や文化への恩返しと地域貢献を目指したい バイクのふるさと発、バイクのフリーマガジン「エンシュージアスト」
今、世は第3次バイクブームだと言われています。
「バイクはコロナ禍の中一人で密を避けて楽しめる」「昔乗っていた人がまた乗り出した(リターンライダー)」など、さまざまな理由は考えられます。
バイクが飛ぶように売れた80年代の空前の第2次ブームほどではないにしろ、
バイク乗りは着実に増えているようです。女性ライダーが大型車で颯爽と走る姿も珍しくありません。
70年代の第1次、80年代の第2次、そして現在のバイクブームで、バイクを取り巻く産業や文化はどう変化してきたのでしょうか。
バイクのふるさとを標榜する浜松で、2017年から発行されている、
バイクにスポットを当てたフリーマガジン「エンシュージアスト」編集長大沼氏に聞いてみました。
SOU:誌名の「エンシュージアスト」とは?
大沼:「エンシュージアスト」は、静岡県西部地域を表す「遠州」と、熱狂的な趣味人を表す語源はギリシア語の「エンスージアスト」を合わせた造語です。「エンスー」という言葉は、車やバイクの趣味人のいわゆるマニアックな人の間でよく使われる言葉で、バイク好きならこの言葉の捻りはすぐに理解してもらえると思ったのですが、あまり一般には浸透していませんでしたね(笑)。毎号巻頭では「エンシュージアスト=遠州の熱中人」として、さまざまな分野で活躍する個人や企業人を取材して取りあげています。また、浜松のもう一つの誇るべき産業である音楽・楽器についても「エンシュージアスト」のテーマの一つになっています。
2017夏発行の創刊号から最新のVol.5まで。
エンシュージアスト編集スタッフ。一番右が大沼氏、右から2番目は発行人の山川氏
SOU:「エンシュージアスト」を創刊した経緯・理由を教えてください。
大沼:私自身、二十歳から三十数年間、趣味としてバイクに乗ってきました。創刊当時の5年前は今の第3次バイクブームの兆しもない頃で、バイクに関わる企業が多くあるこの遠州地方ですら、バイク人口の減少や業界の衰退など、自分の大好きなバイクの世界の行く末に漠然とした不安を感じていました。
私が勤めるデザイン事務所では、過去に「遠州に暮らす」「エコを身近に考える」をそれぞれテーマにした情報誌を発行した経験がありました。そこで今度はバイクの好きなメンバーで、「バイク産業の発祥の地」ともいえる遠州・浜松から、バイクの情報を発信するフリーマガジンを作ろうという話が立ち上がりました。それが「エンシュージアスト」です。その発行を通じて「自分たちが趣味として愛して楽しんできたバイクを取り巻く産業や文化への恩返し、地域貢献ができないか」という思いがありました。
創刊前にバイク好きを集めて行った意見交換会のスナップ。バイク店店主をはじめイラストレーター、メーカー社員、カメラマンなど多様なメンバーが集まった。(前列中央が大沼氏)
SOU:発行は毎年1回で無料配布なんですね。
大沼:はい、もともと毎年8月に開催されている浜松市主催のイベント「バイクのふるさと」での配布を目指して発行していました。一昨年、昨年はコロナ禍で会場での配布ができませんでしたが、ここで中断するよりも「こんな時だからこそ元気な声を上げていこう」と4号、5号は配布に協力していただける店舗や企業さんを中心に配本しました。途切れることなく発行できたのは、私たちの主旨に賛同していただいた皆さんのおかげですね。
運営は広告収入でなんとか印刷費を捻出し、取材や原稿制作費はほぼ持ち出しですが、多くの人に気軽に手にとっていただけるように無料で配布しています。まあ、これも好きだからこそできることなのかもしれません(笑)。「エンシュージアスト」を通じて多くの方々との出会いがあり、それが何物にも変えがたいものになっていたりします。
バイクのふるさと2019会場でエンシュージアストのPRをする大沼氏
SOU:バイク産業発祥の地というお話もありましたが?
大沼:ホンダ、ヤマハ、スズキと日本のバイクメーカー4社のうち実に3社が浜松で創業しています。バイク好きの人間にとっては聖地と言えるかもしれません。
浜松は古くから「ものづくりのまち」です。綿花に始まり繊維産業が盛んとなって、複雑で精密な構造の織機を作る技術や鋳造の技術がバイクの製造に大いに生かされ、多い時には浜松市内だけでも大小40社ほどのバイクメーカーが凌ぎを削っていたと聞いています。浜松の産業は「おりもの」から「のりもの」へとものづくりを広げてきたんですね。
その「ものづくり」の思いは、現在も時代に寄り添うように変化しているのを、取材を通じて実感しています。例えば、ある部品メーカーが自社の製造技術を使ってアウトドア用品を開発したり、介護用品の分野に挑戦したりと、次の「ものづくり」への転換期が近いのかもしれません。それでもバイクはなくならないと思いますけどね!
SOU:時代の流れでライダーにも変化が?
大沼:最近知り合いのバイク店で聞いた話なのですが「うるさくないバイクをください」というお客さんがいたそうです。バイクというと大きな音で集団で走り回る、古くはカミナリ族とか暴走族といった「負」のイメージがあったのですが、法整備やライダーの意識の変化で、エンシュージアスト創刊の5年前と比べても、随分社会への溶け込み方が変わった気がします。「より快適に、安全にバイクに乗りたい」という意識が主流となってきたように思うのです。バイク自体も排ガス規制やABSの義務化などを通じて、変化・進化してきていますし、ウエアやアフターパーツもしかりです。リターンライダーで久しぶりにバイクや用品に触れて「浦島太郎の気分」で驚く方も多いみたいですね。それに加えて、温故知新とでもいうのでしょうか、ライダーの年齢に関わらず旧車と呼ばれる過去の名車の魅力が再認識されています。コロナ禍の影響もあるのでしょうが、そういった環境や意識の変化が第3次バイクブームにつながっていったんじゃないでしょうか。
SOU:バイクがより一層文化として認められるために必要なこととは?
大沼:特に浜松の文化の根幹には「ものづくり」の歴史があり、近代においては、それがそのまま「バイク文化の歴史」につながっているのではないでしょうか。浜松が「バイクのふるさと」と言われる由縁を、しっかり後世に伝える術が必要です。微力ですが、エンシュージアストがその一端を担っていけたらいいですね。それと、せっかくメーカーのお膝元なのですから、官民一体でもっと協力しあって何かできないかと考えています。「文化」として認められるためには「ものづくり」にプラスして、バイクに乗らない人にも「バイクっていいね」と言ってもらえるような「楽しみ方」の提案もしていきたいと思っています。
私たちの高校生の頃はすでに「3ない運動」が定着していて、私自身バイクの免許取得は20歳でした。先ほどから言っているような時代背景の変化を踏まえて、若い世代が正しく、楽しくもっとバイクに触れられる機会があれば、文化として育まれていくと思います。
SOU:ライダーから見た浜松の魅力は?
大沼:なんと言っても一年中バイクに乗れることじゃないでしょうか。遠州のからっ風と呼ばれる強い風の日もありますが、それでも温暖な気候です。それに少し走れば海や山といったツーリングに適したルートがいくつもあり、最近は浜松近郊にライダースカフェも増えました。そんなお店やツーリング先での出会いや交流も、バイクの楽しみの一つです。
エンシュージアストの取材では、編集部スタッフ揃ってバイクで出かけて、お店を訪問することも。
産業の面からも、バイクを楽しむ面からも、今後もいろいろな情報を発信していきたいと思っています。
編集部スタッフで出掛けた取材ツーリング。
SOU:本日はありがとうございました。
浜松は、エンシュージアストのような動きや、有志によって全国でも有数の部品交換会のようなイベントも行われています。これもバイク産業があるからこそ、そこに誇りを持つ市民がいるからこそではないでしょうか。バイクのふるさとでありバイク文化の発信の地としての浜松を再認識しました。
「バイクはコロナ禍の中一人で密を避けて楽しめる」「昔乗っていた人がまた乗り出した(リターンライダー)」など、さまざまな理由は考えられます。
バイクが飛ぶように売れた80年代の空前の第2次ブームほどではないにしろ、
バイク乗りは着実に増えているようです。女性ライダーが大型車で颯爽と走る姿も珍しくありません。
70年代の第1次、80年代の第2次、そして現在のバイクブームで、バイクを取り巻く産業や文化はどう変化してきたのでしょうか。
バイクのふるさとを標榜する浜松で、2017年から発行されている、
バイクにスポットを当てたフリーマガジン「エンシュージアスト」編集長大沼氏に聞いてみました。
SOU:誌名の「エンシュージアスト」とは?
大沼:「エンシュージアスト」は、静岡県西部地域を表す「遠州」と、熱狂的な趣味人を表す語源はギリシア語の「エンスージアスト」を合わせた造語です。「エンスー」という言葉は、車やバイクの趣味人のいわゆるマニアックな人の間でよく使われる言葉で、バイク好きならこの言葉の捻りはすぐに理解してもらえると思ったのですが、あまり一般には浸透していませんでしたね(笑)。毎号巻頭では「エンシュージアスト=遠州の熱中人」として、さまざまな分野で活躍する個人や企業人を取材して取りあげています。また、浜松のもう一つの誇るべき産業である音楽・楽器についても「エンシュージアスト」のテーマの一つになっています。
2017夏発行の創刊号から最新のVol.5まで。
エンシュージアスト編集スタッフ。一番右が大沼氏、右から2番目は発行人の山川氏
SOU:「エンシュージアスト」を創刊した経緯・理由を教えてください。
大沼:私自身、二十歳から三十数年間、趣味としてバイクに乗ってきました。創刊当時の5年前は今の第3次バイクブームの兆しもない頃で、バイクに関わる企業が多くあるこの遠州地方ですら、バイク人口の減少や業界の衰退など、自分の大好きなバイクの世界の行く末に漠然とした不安を感じていました。
私が勤めるデザイン事務所では、過去に「遠州に暮らす」「エコを身近に考える」をそれぞれテーマにした情報誌を発行した経験がありました。そこで今度はバイクの好きなメンバーで、「バイク産業の発祥の地」ともいえる遠州・浜松から、バイクの情報を発信するフリーマガジンを作ろうという話が立ち上がりました。それが「エンシュージアスト」です。その発行を通じて「自分たちが趣味として愛して楽しんできたバイクを取り巻く産業や文化への恩返し、地域貢献ができないか」という思いがありました。
創刊前にバイク好きを集めて行った意見交換会のスナップ。バイク店店主をはじめイラストレーター、メーカー社員、カメラマンなど多様なメンバーが集まった。(前列中央が大沼氏)
SOU:発行は毎年1回で無料配布なんですね。
大沼:はい、もともと毎年8月に開催されている浜松市主催のイベント「バイクのふるさと」での配布を目指して発行していました。一昨年、昨年はコロナ禍で会場での配布ができませんでしたが、ここで中断するよりも「こんな時だからこそ元気な声を上げていこう」と4号、5号は配布に協力していただける店舗や企業さんを中心に配本しました。途切れることなく発行できたのは、私たちの主旨に賛同していただいた皆さんのおかげですね。
運営は広告収入でなんとか印刷費を捻出し、取材や原稿制作費はほぼ持ち出しですが、多くの人に気軽に手にとっていただけるように無料で配布しています。まあ、これも好きだからこそできることなのかもしれません(笑)。「エンシュージアスト」を通じて多くの方々との出会いがあり、それが何物にも変えがたいものになっていたりします。
バイクのふるさと2019会場でエンシュージアストのPRをする大沼氏
SOU:バイク産業発祥の地というお話もありましたが?
大沼:ホンダ、ヤマハ、スズキと日本のバイクメーカー4社のうち実に3社が浜松で創業しています。バイク好きの人間にとっては聖地と言えるかもしれません。
浜松は古くから「ものづくりのまち」です。綿花に始まり繊維産業が盛んとなって、複雑で精密な構造の織機を作る技術や鋳造の技術がバイクの製造に大いに生かされ、多い時には浜松市内だけでも大小40社ほどのバイクメーカーが凌ぎを削っていたと聞いています。浜松の産業は「おりもの」から「のりもの」へとものづくりを広げてきたんですね。
その「ものづくり」の思いは、現在も時代に寄り添うように変化しているのを、取材を通じて実感しています。例えば、ある部品メーカーが自社の製造技術を使ってアウトドア用品を開発したり、介護用品の分野に挑戦したりと、次の「ものづくり」への転換期が近いのかもしれません。それでもバイクはなくならないと思いますけどね!
SOU:時代の流れでライダーにも変化が?
大沼:最近知り合いのバイク店で聞いた話なのですが「うるさくないバイクをください」というお客さんがいたそうです。バイクというと大きな音で集団で走り回る、古くはカミナリ族とか暴走族といった「負」のイメージがあったのですが、法整備やライダーの意識の変化で、エンシュージアスト創刊の5年前と比べても、随分社会への溶け込み方が変わった気がします。「より快適に、安全にバイクに乗りたい」という意識が主流となってきたように思うのです。バイク自体も排ガス規制やABSの義務化などを通じて、変化・進化してきていますし、ウエアやアフターパーツもしかりです。リターンライダーで久しぶりにバイクや用品に触れて「浦島太郎の気分」で驚く方も多いみたいですね。それに加えて、温故知新とでもいうのでしょうか、ライダーの年齢に関わらず旧車と呼ばれる過去の名車の魅力が再認識されています。コロナ禍の影響もあるのでしょうが、そういった環境や意識の変化が第3次バイクブームにつながっていったんじゃないでしょうか。
SOU:バイクがより一層文化として認められるために必要なこととは?
大沼:特に浜松の文化の根幹には「ものづくり」の歴史があり、近代においては、それがそのまま「バイク文化の歴史」につながっているのではないでしょうか。浜松が「バイクのふるさと」と言われる由縁を、しっかり後世に伝える術が必要です。微力ですが、エンシュージアストがその一端を担っていけたらいいですね。それと、せっかくメーカーのお膝元なのですから、官民一体でもっと協力しあって何かできないかと考えています。「文化」として認められるためには「ものづくり」にプラスして、バイクに乗らない人にも「バイクっていいね」と言ってもらえるような「楽しみ方」の提案もしていきたいと思っています。
私たちの高校生の頃はすでに「3ない運動」が定着していて、私自身バイクの免許取得は20歳でした。先ほどから言っているような時代背景の変化を踏まえて、若い世代が正しく、楽しくもっとバイクに触れられる機会があれば、文化として育まれていくと思います。
SOU:ライダーから見た浜松の魅力は?
大沼:なんと言っても一年中バイクに乗れることじゃないでしょうか。遠州のからっ風と呼ばれる強い風の日もありますが、それでも温暖な気候です。それに少し走れば海や山といったツーリングに適したルートがいくつもあり、最近は浜松近郊にライダースカフェも増えました。そんなお店やツーリング先での出会いや交流も、バイクの楽しみの一つです。
エンシュージアストの取材では、編集部スタッフ揃ってバイクで出かけて、お店を訪問することも。
産業の面からも、バイクを楽しむ面からも、今後もいろいろな情報を発信していきたいと思っています。
編集部スタッフで出掛けた取材ツーリング。
SOU:本日はありがとうございました。
浜松は、エンシュージアストのような動きや、有志によって全国でも有数の部品交換会のようなイベントも行われています。これもバイク産業があるからこそ、そこに誇りを持つ市民がいるからこそではないでしょうか。バイクのふるさとでありバイク文化の発信の地としての浜松を再認識しました。