COLUMN特集

2019.03.25 繊維産業 浜松生まれの注染そめ浴衣・遠州木綿着物の魅力

立場の異なるメンバーが集い、浜松生まれの注染そめ浴衣・遠州木綿着物の魅力を発信
▲いとへんのまち

夏の風物詩といえば、地元の夏祭りや花火大会で見かける色とりどりの浴衣。浜松市は日本有数の浴衣の生産地でありながら、それを知る人はあまり多くはありません。さらに、浜松で作られた注染そめ浴衣を地元浜松で手に入れる機会は少なく、産地ではあるものの、残念ながら「着る文化」が根付いているとは言えません。今回は、「いとまちプロジェクト」代表の白井成治さんを訪ね、浜松で作られた注染そめ浴衣の魅力についてお聞きしました。


▲いとまちプロジェクト 代表 白井成治さん


SOU:まず、「いとまちプロジェクト」について教えてください。
 
白井:浜松は、浜松注染そめ浴衣や遠州木綿の産地なんですが、作る場所であって、生地(反物)や浴衣があまり売られていないんです。「いとまちプロジェクト」は、浜松で浴衣生地が織られ、浜松で染められていることを伝え、その魅力を地元の人たちに知ってもらうことを目的に活動していて、浜松注染そめ浴衣をもっと身近に感じてもらいたいと思っています。
 
SOU:花火大会などで浴衣姿を見ますが、浜松注染そめの浴衣はどんな特徴がありますか?
 
白井:よく見かけるのは、柄をプリントした浴衣だと思います。今の浴衣はプリントが主流で、浜松注染そめの浴衣は流通の1割程度です。プリントの浴衣との一番の違いは風合い。浜松注染そめの浴衣は通気性が良く、ふんわりと柔らかな肌ざわりが特徴なのと、柄を染める時、染料と染料が混ざり合う部分が綺麗に自然なぼかしとなって表現されているところです。ショッピングモールなどで売られている浴衣はほぼプリント生地を使用したもの。製造過程で生地を引っ張ったり、プリントを乾燥させるために熱を加えたりするので、どうしても生地の風合いがなくなってしまう。ただ、細かなデザインの柄ができ、発色がいいというメリットがあり、手の届きやすい価格で、どちらがいいとか悪いという話ではなく、それぞれに良いところがあります。
 
SOU:浜松で生産しているのに、浜松注染そめの浴衣が地元で買えないのはどうしてですか?
 
白井:みなさんが買うときは、すでに浴衣に仕立てられた状態かと思います。でも、浜松注染そめの浴衣は、まず小売店、主に呉服屋さんで生地の状態(反物)として販売されることが多い。さらに注染の生地を取り扱う問屋は東京や大阪、名古屋などの大都市圏に多く、浜松で売ろうとすると一度、都市圏に行って逆輸入する形での販売にならざるを得ません。あと、メーカーが直接小売店や消費者に売ることが難しいという業界の古いしがらみや流通形態も理由の一つです。


▲浜松注染ゆかたの生地

SOU:注染の生地を浴衣に仕立て上げた状態で販売してはダメなんですか?
 
白井:浜松注染の浴衣はしっかり採寸して、着る方のマイサイズでの仕立てをお勧めします。フリーサイズの既製品は、サイズがかなり大きめに作られているものが多く、着付の際に余分な生地を重ねてしまい込まなくてはなりません。そのため通気性を損ねたり、長身の方、バストのある方、やせ型の方など様々な体形には合わず快適に着る事ができません。身幅・着丈・腕の長さなど、しっかり自分のサイズに合わせる事で、着崩れしにくく通気性も損なわれず快適に着る事が出来るんです。これは男女共同じです。暑い夏に着る浴衣は少しでも涼しく着る事ができるように通気性を考えられて生地も作られているので、その機能を最大限に活用できるよう、マイサイズで仕立てるのが一番です。
 
SOU:そういう状況下で「いとまちプロジェクト」が誕生する訳ですね。
 
白井:愛知県西尾市にあるあづまや呉服店さんが企画したイベントに参加して、浜松注染そめの浴衣をもっと消費者にPRする必要があると感じたのが設立のきっかけです。同じような課題感を持っていた人たちと一緒に「いとまちプロジェクト」を立ち上げ、年1回、浜松注染そめの浴衣や遠州木綿の魅力や価値を伝えるイベント「いとへんのまち」を開催しています。



▲いとまちプロジェクト
 

職人の視点に立つことで価値に気付く


SOU:「いとまちプロジェクト」にはどのような方が参加しているのですか?
 
白井:私がいるメーカーをはじめ、染色工場、問屋、小売り、作家、消費者など、製造から販売、買い手まで、さまざまな立場の人が関わっています。
 
SOU:「いとまちプロジェクト」の中に問屋や小売りの方がいることで、都市部の問屋から逆輸入したり、メーカーから直接買うことはできないという、これまでの流通形態を乱すことなく、一般の方が浜松注染の浴衣を買える仕組みになっているのが画期的ですね。イベントをされた印象を教えてください。
 
白井:着物や浴衣を着ることが好きな人と出会えたことで、彼ら彼女らの意見を製品に生かすことができるようになりました。また、これまで私たちは流通網を持っている問屋だけを向いていましたが、イベントをきっかけに消費者の方を向くことができたのは大きかったですね。


▲浜松注染そめの体験

SOU:「いとへんのまち」では地元で生産した反物の販売だけでなく、和小物や注染手ぬぐいの販売、体験ワークショップなどもしていますね。
 
白井:浜松の注染や遠州木綿を知って楽しんでもらうことが目的なので、単なる販売会にはしたくなかったんです。浜松注染そめや和裁の体験では、消費者が実際に体験することで、製造に携わる職人の技術力やその価値を知ることができます。また、帯結びの無料レクチャーなども行い、消費者が浴衣や着物を着たときのイメージが湧くようなイベントを意識しています。
 
SOU:確かにプリント製の浴衣と比べると、注染の浴衣は値段が高い。でも、消費者の方がイベントで職人と同じ仕事を体験することで、その価値に気付くことができる訳ですね。参加者の反応はいかがでしたか。
 
白井:みなさん、「こんなに手間がかかっていたんだと驚かれますね(笑)」。イベントで浜松注染浴衣のレンタルをしたときは、「涼しさが違う!」「肌ざわりがいい」と言っていただきました。実際に着ていただけると、浜松注染そめの浴衣の良さをちゃんと分かっていただけますね。


▲色とりどりの反物を楽しむ
 

これまでのルールに囚われない、
新しい和装の文化を育む


SOU:4年間活動をしてきて、何か変化は感じられますか?
 
白井:SNSなどの投稿を見ると、浴衣や着物を着る人は確実に増えている気がします。あと、意外と若い世代からの反応もあります。昨年、浜松学芸高校「はままつ胸キュンプロジェクト」の生徒たちと一緒に注染の浴衣のポスターやフォトブックを制作したんですが、その子たちが注染の浴衣生地を使って夏用の制服を作りたいと言ってくれて。
 
SOU:面白そうですね。もう少し詳しく教えてください。
 
白井:なぜ浴衣生地を制服にしたいの?と聞いたら、「制服と比べて軽く、涼しいから」と。そこで、弊社がデザインしたシャツをアレンジして、水色と青色の花柄の生地を一部に取り入れました。縫製は「(株)ミズタニ」さんにお願いして、機能性などを調整して、この春には購入希望者を募り、夏の準制服として使用する予定です。若い世代が日常的に着ることで、より多くの人が浜松注染そめの浴衣生地に興味を持ってくれたらうれしいですね。


▲制服に使われている生地

SOU:活動を続ける中で、業界内では何か反応はありましたか?
 
白井:異業種の方が注染を生かした製品を作り始めるようになりました。例えば、日傘の生地に使ったり、襖や障子、あんどんに採り入れたり。他にも、はんこ屋さんが動物柄の飾り手ぬぐいをデザインし、販売しています。白井商事も、染め工場さんと一緒に新しいオリジナル製品の企画が進んでいます。
 
SOU:今後の展望を教えてください。
 
白井:浴衣や木綿の着物といった和装が、おしゃれ着の選択肢の一つとして広まってくれたらうれしいですね。浅草や京都のように観光しながら着るというスタイルは浜松では難しいかもしれませんが、「産地だから着る」という考えがあってもいいと思います。普段から産地のものを着ている人がいる、そんな産地になって欲しいですね。
 
SOU:そのためにどのようなことが必要だと思いますか?
 
白井:一過性ではなく、「根付く」ことが大切だと思うし、イベントや日々の活動の中でもそれを大事にしています。有名芸能人の方が着た浴衣は爆発的に売れるんですが、ブームが過ぎると急に売れなくなる。地道に価値を伝えていくことが大切だと思います。以前、静岡市にある呉服屋さんから何か一緒にできないかと相談がありました。静岡市は下駄が有名なので、産地同士でコラボするのもいいかもしれませんね。僕らの活動に共感してくれる他の産地や業界の方と協力して盛り上げていけたらなと考えています。



SOU:最後に、白井さんおすすめの和装の楽しみ方を教えてください。
 
白井:TPOをわきまえれば、もっと自由に着ていいと思います。7月の第1週には、浴衣や着物をドレスコードにしたパーティを開催し、毎回たくさんの方に参加いただいています。パーティの様子をFacebookに上げると、「こんな感じで楽しく着ていいんですね」という好意的なコメントをいただきます。他にも、男女で同じ柄の色違いで浴衣を仕立てる人も増えていて、柄や色も含めて、和装は洋装よりも遊べる余地があるかもしれませんね。そのためにも「いとまちプロジェクト」が浜松注染そめの浴衣や遠州木綿の魅力を継続的に発信していくことが大事だと考えています。