COLUMN特集

2018.01.27 繊維産業 遠州織物の魅力を語る ―㈱糸編代表 宮浦さん―


「遠州織物のクオリティは世界トップクラス。
遠州が本気出したものは、国内はもちろん世界のメーカーでも真似できないと思います」



<浜松ものづくり力探訪>第1弾。

全国の繊維産地を訪問してその魅力を発信しながら、デザイナーと生産者の橋渡し役としてものづくりにも携わる株式会社糸編代表の宮浦晋哉さんに、「遠州織物産地としての浜松」についてお話を伺いました。
 
SOU:最初に、糸編、宮浦さんの活動について教えていただけますか?

5年前に個人事業で始めたのですが、全国の繊維産地に訪問取材して情報発信するメディア事業が半分、もうひとつがテキスタイルの事業で、主に東京にいるデザイナーの生地づくりをお手伝いしたりとか、話し合いの中で希望に合いそうな生地を持ってきたりとか。織物もニットも染物も加工も、色々お手伝いしたり、それが活動の二つの軸です。

SOU:デザイナーというのは、いわゆる服飾デザイナー?

そうですね、ファッションデザイナーとか。一緒に産地に行くこともあります。中には海外のお客様もいて、輸出したり、日本に来て一緒にリサーチすることもあります。

SOU:5年前に始められたきっかけは?

学生の時イギリスに留学していて、ファッションメディアのコースにいたんですね。当時ソーシャルメディアに火がついた頃で、教授から「これからは一人一人が発信する時代だから、アカウントをつくって取材してきなさい」って言われて。ロンドン中心にデザイナーのところに取材に行ってたんですよ。そしたら日本の生地があって。

SOU:ロンドンで日本の生地に出会ったんですか?

そうです。スワッチと言って、生地見本ですね。「なんだこれは!」って。
聞くと、日本の生地は世界トップだ、みたいなことをみんな言うんですよ。それって凄いですよね。

世界的にみると、生産地を持つ国は少なくないんですけど、技術ノウハウと歴史があるのは、日本かイタリアなんですよね。後から出てきた中国とか韓国とかあるんですけど、ノウハウのストックがなかったり。ハイブリット的な伝統とか、ローテクとか、色んなことできる日本の生地って面白いなって思ったのがスタートですね。

SOU:日本に戻ってすぐに活動を?

はい。最初は何のツテもなく飛び込みで。時代も良かったと思います。SNSでみんな発信する風土があったので。
最初の1年くらいは取材してブログにアップして、デザイナー側のPRとか展示会のサポートとかして、産地には毎週のように行ってましたね。それからOEM※の勉強をして、対ブランドで年間契約がはじまって、年間で生産計画をするようになりました。ちょっとずつですね。最初はほぼ素人で、やりながら覚えていきました。
※OEM:他社ブランドの製品を製造すること

SOU:浜松の遠州織物のように全国には同じような繊維の産地があるんですよね?

いっぱいありますけど、有名なところだと ジーンズの児島(岡山県)、タオルの今治(愛媛県)、シャツ生地でいうと、遠州(浜松市)か播州(兵庫県西脇市)、合成繊維だと北陸の福井県、石川県、絹織物の富山県、シルクとポリエステルの群馬県桐生市、藍染めの徳島県とか、そうやって数えていくと40か所くらいですかね。

SOU:その中で浜松の遠州織物との出会いは?

遠州の存在は知っていました。西脇に行けば、浜松と比べてものを語りますし、東京にある生地屋さんとかでも、この生地は遠州とか。シャツ屋さんとかも多いですよね、見たり触ったりはしていて。実際に来たのは産地を回り始めて半年くらい、浜松で外から人を呼ぶツアーが企画されて、若いデザイナー達と来ました。
そのころはまだ知識も浅かったのですが、ここ(遠州織物会館)に来て、これくらい(10cm四方)の生地を切ってもらったんですよ。それが未だにうちの事務所に貼ってあって、それは、ものすごい風合いがいいなって直感的に思って無地のさらし生地で。

この人に聞けば遠州織物のことは大抵わかるという遠州織物会館の松尾さんと
 
SOU:風合いというと具体的には?

柔らかくて肌触りがいいって感じですかね。半年間産地を回ってきて、一番クオリティ高いなって思いましたね。それでビックリして、これって貰えますかって、聞いたくらいで。買うでもなくくださいって(笑)。
いろんな産地を回りましたが、綿の産地としてクオリティが高くて、綿の平織り※で甘縒り(あまより)※の高密度で…トップレベルだと思います。播州も年間10回くらい行っていますが、遠州はクオリティ高いなって思いました。それから遠州には何度も来ましたね。ここにも若いデザイナーを連れて来たり、4~5回は来ています。あとはつながっている工場さんとの打ち合わせで来ます。
※平織り:経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を交互に浮き沈みさせて織る、最も単純な織物組織
※甘縒り(あまより):緩く撚った糸のこと。この糸で編み込んだ生地は、柔らかな風合いと着心地を実現する


SOU:デザイナーからは遠州指定で?

はい。デザイナーとの打ち合わせで高級シャツ地を探していたら遠州に来ます。シャツを企画する人は絶対にいますから。多い時は2週間に1回、シャツの新しい企画とか、オリジナルで織りたいとか。業界的にいいもの作りたいなら遠州なんですよ。最近は単価が高くても良いものを、という顧客が増えてきているので、遠州に来る回数も増えて、仕事にももちろん繋がっています。遠州の場合は風合いやクオリティを求められるケースが多いですね。

織物会館内の生地を触りながら松尾さんに番手を聞く宮浦さん

遠州の細い糸は顕微鏡でみるとその凄さが特にわかる、と宮浦さん
 
SOU:イタリア、ロンドンの人が見たら?

凄く食いつくと思います。ここは宝の山ですよ、生地好きの人間からすると。

明治元年創業、辻村染織有限会社の遠州正藍織物。手仕事で丹念に染め上げた藍染の糸を織り上げ、洗うほどに風合いを増していく味わい深さが評判の生地。
 
これは辻村さんの藍染めで、去年松尾さんに紹介いただいたんです。柄のセンスも素敵で、シャツメーカーとコラボして作ったらこれが大人気で。別のデザイナーもジャケット作って300着くらいオーダーが入ったって言っていました。

SOU:実際に買う層は?価格もそれなりにすると思うのですが。

半分くらいは海外です。最近は海外から日本の生地が欲しいというリクエストも増えていて、先週もベルギーからわざわざ来てくれたりとか、多い時は毎週海外からメールが着ます。国内のブランドさんだと、国内の市場でどう差別化していくかということで、最近は、本当にいいもの、珍しいものを、というニーズが国内で高まっています。

SOU:なるほど。改めてですが、宮浦さんが思う遠州織物の魅力って?

遠州の方々って、時代の流れと市場に迎合しなかったと思うんですよ。安さを求めなかったから工場が減ってしまった。遠州は僕の見解だと、ある意味不器用な人たちが多くて、ハイスペックしかやらない。手を抜いてないから技術も残ってる。時代にそぐわないものを頑なにやってきたから、かっこいいんです。今時代的に、そういうものが求められています。
僕の経験上ですが、海外の人に聞くと、遠州って名前が通るんです。海外でデザイナーに「日本の生地メーカーでどこを思いつく?」って聞くと、遠州はトップ3に必ず入ってきます。北陸か尾州か遠州か、あと児島。遠州は特に、高付加価値なものをやってきたんで、海外での評価が高いんじゃないですかね。

SOU:頑固に高い技術で、他にはできない、他では作らないものをつくる、そこが魅力?

そうですね。そこが魅力ですね。真似しようにも真似できない。世界のメーカーも国内のメーカーも、遠州が本気出したものは真似できないんで、そこに遠州のものづくりの市場があった、っていうことだと思います。だから現役の工場の持つ技術は凄いんだと思います。

SOU:国内の一般消費者にとってはどうでしょうか?

日本人ってシャツを裸で着ないじゃないですか。裸体でシャツを着ると気持ち良さが2倍わかります。海外は裸で着ますから、そこの文化の違いがまずあります。裸にシャツがメジャーになれば、遠州の生地の魅力が伝わるかもしれないですね。肌で感じるのが一番ですから、風合いは。洗ったらどんどん柔らかくなってくるので、なおさら気持ちよくなってくるんですよ
 
SOU:話は変わりますが、浜松の人に接して何か感じることありますか?

商談する中で感じる事ですが、お金ありきのところって話が進みづらいんですよ。遠州の人は、一回話聞くよとか、やってみるかって、断らない、助けてやるっていうのが根っこからあるのかなと感じます。だから結果的に技術が更新されてきているのかなとも。今の仕事でも、「いいよ、納期間に合わないかもしれないけどやってみるよ」って。アパレルだと、とりあえずやってみるか、という姿勢が大事です。建築は建てていくらですけど、アパレルは定番商品がヒットすればリピートするチャレンジ産業ですから。

SOU:いろんな産地を見て、国内、海外のデザイナー、メーカーともつながる宮浦さんが感じる、遠州織物や産地浜松としての課題って何かありますか? 

まずは、名前がもっと出ていいかなって思います。情報発信が他産地と比べると足りないかなって。国内向けに遠州織物というブランディングとPRにもっと力を入れてもいいと思います。せっかくこれだけ良いものを作っているので。
世界の市場に対しても、例えばヒジャブ「(※注釈)イスラム教文化圏でムスリムの女性が頭髪を覆い隠すために着用する布」の生産がいま凄く伸びていて、もともと合繊ですが色々な産地が狙っています。それを今度はウールやリネンでとか。コットンがやっぱり一番気持ちいいと思うので遠州はいけると思います。

あとは、高齢化で技術の継承、事業の承継がかみ合っていないので、若い子にもっと入ってもらったらいいなと思います。愛知県の一ノ宮では若い子に工場で研修させるっていう制度があって、そこで教える職人さんの手間とか、工場を動かす費用を市に請求することができるんです。工場には閑散期があるので両者ハッピーで。兵庫の西脇市は新規就労者ひとりあたりに月15万円を払うという制度があって、2年で15人くらい若手が入っていますし、そういう受け入れ制度があるといいですね。アパレル不況もあって、デザイナーになってもなかなか面白い仕事がない。もっとモノづくりに直接関わりたいと川上に上がってくる傾向はありますが、受け入れが全国的にはできていないので、上手くつなげてほしいです。



SOU:最後に、宮浦さんが思う、ものづくりの魅力を聞かせてください


モノの場合は、予想しないものがゼロから生まれる、その楽しさがあります。予想もしないような形が世に出ていく、その楽しさに関われるっていうのが一番ですかね。男心をくすぐるというか。
繊維だと、糸の話をしていたのに、生地にしたらこんな生地になる、生地だとこうだけど、洋服にしたら化けるみたいな。その全行程が見れるのも楽しいです。想像を超えたり超えなかったり、両方あるから面白いのかもしれません。
モノは嘘をつかない的な楽しさもあります。お客様が最終的には判断して、モノを買うか買わないか、モノの良さで勝負っていうのも魅力ですよね。

SOU:本当に生地がお好きなんですね。本日はありがとうございました。繊維産業での宮浦さんのご活躍をお祈りいたします。
 

<本記事は2017年10月30日に取材しました>
取材協力:遠州織物会館  遠州織物工業協同組合 事務局長 松尾耕作さん