COLUMN特集

2022.11.11 繊維産業 浜松注染そめ老舗企業と地元デザイナー集団がコラボレーション、想いを届ける「注染レター」が生まれるまで

集合写真

関東大震災を機に職人が浜松に多く移り住んだことで地域の産業として発展し、ゆかたや手ぬぐいの生産を中心に今も受け継がれる染色技法「浜松注染(ちゅうせん)そめ」。
この高度な技法を次世代に守り継ぐため、浜松市では地元デザイナーの力を借りながら浜松注染そめの可能性を広げる動きがあります。
 
その一翼を担っているのが、デザイナーコミュニティの「DORP(ドープ、以下:DORP)」。
他分野への新商品展開や、地元でのイベント開催などの取り組みを行ってきました。
 
2020年には、地元のデザイナーと老舗の染色工場をマッチングし、浜松注染そめの事業アイデアを発案するプロジェクトを始動。
その後、会社を設立し、新商品の発売準備に入ったアイデアも。
進化を遂げる、浜松注染そめの新たな可能性をお届けします。

染め物
 注染で染めたさまざまな布製品:CHUSEN mini体験会より


浜松注染そめとは|

浜松を代表する地域ブランドの1つ。
明治時代中期ごろの手ぬぐいの染色に始まるとされ、大正時代には主に浴衣染めの染色に広がったと考えられます。
糊で防染された素地に「やかん」で染料を注ぎ、色とりどりの模様を染め上げます。
 
参考:浜松市HP
 

デザインの力で伝統産業に新たな価値を

DORPは、浜松における創造分野の活性化を目指し、2013年に結成されたデザイナーコミュニティです。
DORPでは、浜松と縁あるデザイナー同士が繋がり、プロジェクトの主体的な立案・運営や地元企業とのマッチングなどを行い、市内のさまざまな創造活動に携わっています。

書籍
 グラフィックデザイナーをはじめ、デザイン業務に携わる多種のクリエイターが参加する。
2016年、2020年にそれぞれ、浜松市に点在するデザイナーを集約・紹介する冊子「浜松デザインパートナーズ」を創刊。
 
 
市内の伝統産業との接点も持ち、デザインの力を生かした新商品開発やブランド創出などに一役買ってきました。
中でもコロナ禍で祭りなどの屋外イベントが減り、ゆかたや手ぬぐいの需要低迷に苦しむ注染そめ業界にスポットライトを当てたのが、「浜松注染そめオープンプロジェクト(以下:本プロジェクト)」です。
 
2020年、老舗の染め工場に受け継がれてきた技術とアイデンティティを再発掘し、その価値を発信するプロジェクトとして浜松市と共同で企画。
12名のクリエイターから応募が集まり、それぞれの得意分野を生かした多彩なアイデアを出し合いました。
 
▶2020年の様子をご紹介した前回の記事はこちら
 
クリエイターは3チームに分かれ、3社それぞれの企業へアイデアを提案しました。
その中から本格的に動き出したプロジェクトも。
その1つが、手ぬぐいとともに想いを届ける「注染レター」です。



 

職人との丁寧な対話から生まれるのは、各社の強みと魅力が生きたユニークな事業プラン



 

DORPの代表であり、本プロジェクトを機に設立された風しずく合同会社の代表社員でもある鈴木力哉さんに、注染レターが生まれるまでの経緯を聞きました。
 
SOU:まず、前回からのプロジェクト進捗を教えてください。
 
鈴木:
前回は、プロジェクトに賛同いただいた3社の染め工場に対して、クリエイター3チームがそれぞれの事業アイデアを提案しました。
クリエイターが実際に工場を訪れ、職人さんとの対話や生産工程の見学を通じ、その工場ならではの価値を再定義していきました。
そのため、どのチームのアイデアも、企業の強みや特性にあわせた個性豊かな提案になったと思います。
 
2020年における本プロジェクトのゴールは事業プランの提案まででしたが、一歩進んで商品化に至ったアイデアもありました。
その1つが、武藤染工さんに提案した注染レターです。


 

武藤染工株式会社への提案プラン|

同社の特徴は、色と柄を巧みに取扱い、日本の色彩美を表現することに長けていること。
そこで、浜松注染で染め上げた手ぬぐいの美しさをそのままに、手紙とともに送れるオリジナル商品の「注染レター」を提案しました。
手紙の受取り手が自宅やオフィスにそのまま飾れるよう、手ぬぐいを窓付きパッケージに包むアイデアです。
 

注染レターのイメージ動画
 
SOU:注染レターはどのような流れで商品化まで進んでいったのですか?
 
鈴木:
2020年当時すでに試作品も作っていたんです。
それがアイデアの段階で終わってしまうのは残念だという気持ちを、武藤染工さんもお持ちのようでした。
クリエイターチームも商品を世に出すところまでやり切りたいという想いがあり、商品化を目指すことになりました。
 
チームメンバーで風しずく合同会社を立ち上げ、武藤染工さんと本格的で継続的な協力関係を続けてきました。
今は、2022年末のリリースを目標に、注染レターのテスト販売や販売チャネルの開拓を行っています。
 
SOU:すばらしい発展ですね。商品化にあたり苦労したポイントは何ですか?
 
鈴木:
発注元と武藤染工さんが結んでいる守秘義務を守りながら、新商品を考えることには頭を使いました。
産業構造上、同社が新商品を市場に直接流通させるのが難しい課題もありました。
そこで、クリエイターチームから注染レターの生産を依頼できる体制を作れるよう、風しずくを立ち上げたのです。
そうすれば武藤染工さんは、これまでの受発注のやり方を変えずに済みますので。
 
どの企業にも、それぞれに異なる想い・商習慣がありますね。
新たな取り組みを始めるとき、協力企業のみなさんに負担がかからない仕組みを作ることは、私たちが継続的な支援を続けるにあたって大事にしたいポイントです。

 

伝統に敬意を、創るべきは顧客との新たな接点

SOU:注染レターのプランは、地元のビジネスプランコンテストでも特別賞を受賞し、話題を呼んでいましたね。
 
鈴木:
さまざまなご縁が折り重なって手繰りよせた結果でしたが、ビジネスプランコンテストで最終選考に残れたのは、風しずくの事業にとってプラスになりました。
 
約3カ月にわたり地元起業家のメンタリングを受けたことで、注染レターのブラッシュアップだけでなく、会社としての存在意義を再認識できたからです。 


引用:風しずく公式HPより
 

注染レターを通じて私たちが実現したいのは、デザインの力で地場産業に新しい風を吹き込み、伝統技術を次世代へ受け継ぐお手伝い。
その想いを言葉にしてHPにも明確に掲げられたことは、会社としてのステップアップに繋がりました。
 
その後、地元の展示会やイベントなどでも注染レターをテスト販売しています。
そうして地元のご縁を繋ぎながら、業界にとって必要なことをご支援していけるのは嬉しいことです。


風しずくでは、浜松注染そめの一部を体験できるイベントも主催。
 

SOU:まさに地元発の素敵な取り組みですね。市販を控えた注染レター、次なる目標は何でしょうか?
 
鈴木:
将来的には、武藤染工さんに安定的な発注ができるようになることが理想です。
ただ、同社がこれまでに接点のなかった顧客層に届く商品をリリースすることにも意義があると考えます。
 
SOU:ありがとうございます。それでは最後に、DORPの今後の展望をお聞かせください。
 
鈴木:
伝統産業を中から変えようとする動きも、業界に対する助言も、さまざまな企業・団体が以前から行ってきたように思います。
そんな中私たちに求められるのは、デザインやブランディングの力で業界を中から変える内側のアプローチよりも、注染業界が新たな顧客やファンと出会えるような接点を増やしていくような外側のアプローチではないか、と考えています。
 
たとえば、近年増えているハンドメイド作家の人たちに注染そめの魅力を伝え、素材を使っていただくなど。
イベント主催やブランド開発などを通じて、多くの人に伝統産業と触れてもらい、新しい関係性をたくさん生み出していきたいですね。
多彩な接点の中からおもしろい化学反応がたくさん生まれ、業界全体に貢献していけたらうれしいです。