COLUMN特集
2022.10.05 バイク産業 愛車とともに一休み、交通安全祈願を受けられるツーリングオアシス「大歳神社」
世界をリードするオートバイメーカー「スズキ」「ホンダ」「ヤマハ」の創業地である、浜松市。
バイクのふるさととして知られるこの地には、全国からライダーの集まる神社があるのをご存じですか?
道中の安全祈願を受け、ライダーが一息付ける場所となっているのが、東区天王町にある「天王宮 大歳(おおとし)神社」です。ユニークなデザインのお守りやおみくじがSNSでも話題となっている同社ですが、創建のルーツをたどれば平安時代にさかのぼるそう。
由緒正しい大歳神社で、なぜバイクの取り組みが?
権禰宜(ごんねぎ:神職の位)を務める石津紀祥(いしづ・のりよし)さんに、大歳神社の活動についてお話を伺いました。
天王町の五差路、北西に伸びる細道を入ると目の前に現れるのが大歳神社です。
境内の手前には、30台ほどのバイクを停められるアスファルトの駐輪場。
左手には、車も50台は停められるかというほどの駐車スペースが広がっています。
取材当日に伺うと、参拝客の方がちらほら。
普段からライダーだけでなく、地域住民を中心とする参拝客が気軽に立ち寄られるそうです。
授与所には一般的なお守りも並ぶ一方で、ライダー心をくすぐるお守りグッズが置かれています。
バイクのハンドルに巻き付けられるベルト状の「道楽守(どうらくまもり)」や、道路標識風のステッカー、ライダーとだるまの文字を組み合わせた「ライダーるま」のガチャみくじなど。
愛車や自分自身にピッタリなお守りはどれだろう……?と迷っていると、「ようこそおいでくださいました」と神主さんがジュースを差し入れ、神社の由来やお守りの説明をしてくれました。
従来のイメージを覆す大歳神社の取り組みは、どのように生まれたのでしょうか?
SOU:まずは大歳神社の御由緒・御祭神について教えてください。
石津:
毎年お正月に新しい年を授けてくださる神様、大歳神様にご縁の深い神社です。
もともとは「天王宮」「天皇宮」「大歳神社」の三社に分かれていましたが、疫病の流行をきっかけに邪悪を祓ってくださる素戔嗚尊(スサノオノミコト)様を主祭神として合祀され、今の形になりました。
地域の中では、長らく地鎮祭を任される神社でもありました。
地鎮祭とは、建物を建てる前に土地の神様を祀って工事の無事を祈念する神事のこと。
弊社の神主たちは、お宅に出向いて地鎮祭を執り行ってきたことから、冠婚葬祭など地域の暮らしにも寄り添ってきました。
延長5年(927年)にまとめられた『延喜式』という書物には大歳神社の記載があり、 平安時代にはすでに創建されていたといわれています。
大歳神社 権禰宜 石津紀祥さん
SOU:そのような伝統的な大歳神社が、ライダーの受け入れを始めたきっかけは何だったのでしょうか?
石津:
現代のライフスタイルに合った、神社へ参拝したくなるようなきっかけづくりが必要だと感じたことです。
ちょうど、年号も令和に切り替わろうとしていました。
その年に上皇陛下が結婚60年を迎えられることから、令和元年に「夫婦(めおと)守り」を作らせていただきました。
ところがお守りを製造してくださったメーカーの方がバイクのライダーで、同じくバイク乗りである私とバイクの話で偶然盛り上がってしまいまして(笑)。
「浜松はバイクのまちなのに、ライダー向けの休憩スポットが少ないよね」という話から、ライダーがゆっくりできる場所とお守りを提供したいと思いました。
ライダーが大歳神社にお参りして一息つけば、交通安全や交通マナーの向上に繋がります。
そのことはさらに、バイクのイメージアップへと繋がり、バイク産業の盛り上がりにも貢献できるでしょう。
大歳神社でライダーを受け入れることが、巡り巡って浜松のためになればと考え、ライダー向けの受け入れを始めたのです。
御朱印も一般柄から二輪柄、時節柄まで常時9種類ほどが楽しめる。
SOU:ライダー向けの取り組みはSNS上でも大きな話題となっていましたね。
石津:
参拝者の方から聞いて後から知ったのですが、本当にたくさんの方がSNSで拡散してくださいました。
平成最後・令和最初と銘打って企画した「ツーリング参拝」が予想以上の反響で、ご用意していた道楽守もその後は頒布が間に合わなくなるほど。
そうしてライダーの方に来ていただけるようになると、いろいろしてさしあげたいことが増えました。
参拝者の方にお飲み物を提供したり、砂利でバイクが転倒しないよう駐輪場を整備したりするうちに、さらにライダーさんの参拝で盛り上がっていきました。
道楽守りの返納所
SOU:ちなみに、道楽守の由来である「道楽者」の意味は何ですか?
石津:
今では"遊び人"のようなイメージで使われることもありますが、もともとは「一つの道を極めた後で、この世を真に楽しみ過ごしている人」という意味の言葉です。
仕事を極めた方々が本業以外の趣味も楽しんでいる様子を、粋だと褒める言葉だったんですよ。
ライダーもバイクの道を極める存在といえます。
そんな皆さんに敬意を表し、弊社では道楽守として縁起をお授けするようになりました。
SOU:神社のご由緒はもちろん、お守りの由来を聞いても日本の歴史文化が感じられ、おもしろいですね。
ライダーの参拝者が増えてから、新たな取り組みも始まったと聞きました。
石津:
そうですね。令和3年には、「疾風巡拝(しっぷうじゅんぱい)プロジェクト」を始めました。
疾風巡拝プロジェクトとは、全国さまざまな神社仏閣をバイクでお参りいただける新しい巡礼の形です。
ライダーは出発地点で授かった革のバンド「刻道御守(ごくどうまもり)」に、御朱印ならぬ御刻印を自ら打って集めながら巡拝できます。
「刻道御守」として頒布している革のバンドは、革ジャンメーカーの老舗「カドヤ」の縫製。
石津:
北は北海道、南は愛媛まで。
現在、37社にご参加いただけるようになりました。
知られざる日本の神社仏閣に出向くことで、ライダーのみなさんも日本の歴史文化を肌身に感じていただけるでしょう。
疾風巡拝プロジェクトを始めたお陰で、信仰や宗派を超えて寺院のご住職さんとの交流も新たに生まれました。
SOU:伝統を重んじる部分もありながら、新たに地域社会の課題にもアプローチしているのですね。
石津:
本来神社は地域コミュニティの中心にあり、実際の経済とも深く関わってきました。
私たちも地元に根付いた神社の1社として、地域の方からあってよかったと思ってもらえるように頑張りたいと思います。
コロナ以前には「381TR(さんぱいティーアール、381:参拝の意味、TR:ツーリング・ラリー)」という、浜松市内をバイクで巡り、最後に弁天島の夕日を拝むツーリング企画をテスト開催しました。
コロナ禍で本開催は延期となりましたが、今後も新たな参拝の形を企画し地域活性化に貢献したいと考えています。
SOU:ライダーの受け入れを始めてから、どのような効果を感じていますか?
石津:
浜松のツーリングスポットや弊社を目的地に、遠方から訪れてくれるライダーが多く見えるようになりました。
すると地域の飲食店や宿泊施設の利用者も増えますから、地元の経済活性化にも貢献できることを強く実感しています。
神社に立ち寄ることで、ライダーのみなさんも安全運転やマナーをより意識してくれるようです。
そんなライダーに氏子や参拝客のみなさんも理解を示してくださり、双方のコミュニケーションも生まれています。
「そのライダースーツ、かっこいいですね」「今日はどこからお見えになったんですか?」と、境内でバイク談議に話が咲くことも。
浜松がバイクのふるさとであることを以前より感じるようになりました。
SOU:ありがとうございます。それでは最後に今後の展望をお願いします。
石津:
これからも地域の神社が地域の方から必要とされる場であるためには、伝統に加えて新たな文化の創出も必要だと考えています。
弊社にとっての新たな文化とは、地元が誇るバイク産業を起点とした取り組みでした。
今後は同じ想いを持つ他地域の神社や寺院にも、バトン(バイカーの受け入れをはじめとしたチャレンジする気概)を渡していきたいと考えています。
伝統を大切にしながら地域貢献にも挑戦する仲間が増えたらうれしいです。